秋田100km

目標はサブ9,しかし前日の発熱で大失敗に終わってしまいました.(石川)

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 「体はできている.前回と比べてスピードという新しいアイテムも手に入れた.このコースは7回目,すみずみまで知り尽くしている.天気もよさそう.これなら絶対に8時間台で走れる.自信はある.」と意気込んで秋田入り.ゴール地点の鷹巣のいつもの宿に着き,顔なじみの宿スタッフとも会ってテンションも上がる.夕食は好物の馬刺し.一番風呂もいただいてゆっくり休んだ.そして土曜,朝から3杯メシをたいらげ「明日14時にはゴールするから待っててください!」と力強く宣言して宿をあとに,秋田内陸鉄道でスタート地点の角館へ向かった.10時40分鷹巣発13時10分角館着の列車だ.

 ちょうど昼頃だったろうか,車内で昼食を食べなければいけないのに,どうも胃の様子がおかしい.なんだかちっとも腹が減らない.朝食を食べ過ぎたか,さっき飲んだコーヒーのせいか,それとも夕べの馬刺しの生にんにくか,そのときはあまり気にしなかった.これがあんなことになろうとはつゆしらず.

 13時過ぎに角館に着くと,受付はもう結構にぎわっている.受付を済ませウロウロしていると「**健康**の者ですけど,骨密度測定してみませんか?」と声をかけられたので,家内と二人でさっそくやってみた.結果は,私は同年代の平均の40%増という好成績で「まず骨折することはありませんよ」と言われてしまった.いや,5年前に折れたことがあったんだけど・・・まあいいか,あれは疲労骨折じゃないし,それよりも疲労骨折するぐらい練習してみろということなのかもしれない.ちなみに家内もほぼ平均値で上出来,やはり日ごろの食生活は大切だ.家内に感謝しなくてはいけない.

 受付を済ませて宿へ向かう.でも様子が変だ.胃が痛い.背筋がピリピリして腰に力が入らない.後頭部に脈を打つような痛みがある.熱が出るときの前兆によく似ている.まさか,野辺山のときと同じ?いや,そんなはずはない.ここまできて熱が出ることなんてありえない.きっと緊張のせいだ・・・「ちょっと胃が痛い」ということで,途中の薬局で胃薬を買ってみた.しかしそんなゴマカシもだんだん効かなくなってきた.これは明らかに変だ.家内に本当の状態を告白,診断は「あんた熱あるよ」だった.

 野辺山をスタートできなかった悪夢がよみがえるが,今回は2年ぶりの100kmマラソン,本当に気合が入っていただけに,信じたくない状況だった.でもどうしようもない.スタートに備えてカーボロードだけはして,せっかくの温泉はパス,風邪薬と胃薬を飲んで寝た.ちょうどそのとき甲州街道の徳さんから第一報が入った.順調そうだ.さすがとよたで優勝してきただけのことはある.

 午前3時,熱はいくらか下がったようだがまだ胃が痛い.いつもならここで朝食の赤飯をしっかり食べるはずなのに,とても食べられない.家内は「スタートやめよう」と言ったが「はい」とすんなり返事ができるはずはない.野辺山のときは家内がいなくても自分の判断で「これはスタート不可能」と決断したが,今回はそのときよりは症状は軽い.なんとかなるんじゃないか.仮にサブ9を落としたとしてもサブ10ぐらいは取れるだろう.それぐらいの余力はあるはずだ(これが甘かったのだが).掲示板では徳さん完走確実の情報も入っている.しばらくボーっとしてから薬を飲み,菓子パン1つだけを食べてスタート地点に向かった.

 午前5時,ピストルが鳴った.狙いどおりのハイペースで飛ばす.設定は5分/kmだが,このコースは前半50kmが53.6km(後述)ある秋田尺(?)コース.5kmごとの距離表示も実際には5.3〜5.4km間隔で設置されている.たいしたことないって?いやそんなことはない.400m違えば私のペースで5kmのラップが2分違ってくる.体感速度は全然違う.私以上のレベルのランナーなら誰でも気がつくはずだ.

 表示5km(実際は約5.4km)を25分台のほぼイーブンペースで進む.しかし頭が痛い.一歩踏み出すとひびく.25km手前のエイドステーションに家内がいる.予定では2時間5分だったが少し早めの2時間3分で到着した.ここまでサブ9ペースの設定通りできている.しかし家内に「大丈夫?」と聞かれても首を横にふるのがやっとで,もうかなりきつい状態だ.

 そして30km地点手前,こんどは胃が痛くなってきた.胃薬の効き目も無くなってきたようだ.もう背中をまっすぐにしていられない.急激にスピードがダウンし,とうとう足は止まってしまった.8時間台の夢はあまりにも早い段階で消えた.前かがみになって前へ進む.ジョグと歩きの繰り返し.前半のハイライト大覚野峠もほとんど走ることはなく,いいとこナシのまま後続の選手にどんどん抜かれていく.どうしてこんなことに.野辺山だけでなく秋田まで.悔しくて情けなくて泣けてくる.

 時計を確認する.25-30kmに33分,30-35kmに40分かかっている.このままペースダウンが続くと,サブ10どころか時間内完走もできない.ここでまた私の悪いくせである「イイワケ」が頭をよぎる.リタイヤすることは簡単だ.しかし35kmのエイドで温かいなめこ汁をいただくと,ちょっと落ち着いてきた.もうちょっとがんばってみよう.そして5時間10分,ようやく50kmのエイドに到着した.

 50km地点で悔し涙を流しつつも,大切な自分との相談を忘れてはいけない.30km以降スピードは完全にダウンしたが,40分/5kmはキープできている.このあとの50kmをこのペースで行けば6時間40分,ここまで5時間10分だから合計11時間50分,制限時間は13時間,まだ1時間以上余裕がある.胃薬を飲んで胃痛を抑えれば前進できないことはない.それにこのペースなら筋肉へのダメージはほとんどないから,秋のフルへ向けて後遺症を残すこともないだろう.家内の心配はわかるが,ここでリタイヤして帰ったんじゃ何も残らない.完走だけでもしておけばあこがれのクリスタルランナー(10回完走者の称号,今回の完走で6回目となった)に一歩近づける.次へつなげるためにも,ここは関門アウトになるまでコース上で粘るべきだ.

 65kmで飯泉さんからの掲示板書き込みを知った.「あえてリタイアは勧めない.その時の自分の体調に合わせて完走を目指せ」というアドバイス.きっと50km地点で飯泉さんが私と同じ状況になったら私と同じ判断をしたはず,そして立場が逆なら私も飯泉さんに同じアドバイスをしたはず,そう考えると勇気が出てきた.この65kmエイドで30分近い大休憩をとり,70km地点までの5kmを30分で走った.25km以降では今日のベストラップ.気持ちが大事だという典型だ.もちろん体は正直だからそれ以降は再び40分台まで落ち込んだが.

 80km地点,すでに時計は9時間24分.一昨年はもうとっくにゴールしていた時間だ.しかし今年はまだ20kmある.頭がボーっとしてきた.でも制限時間まであと3時間半,ここからは1km10分ペースでも間に合う.ここまでくればもう大丈夫だ.時間内完走を確信した.89km手前の合川駅で待っていた家内が300m先のエイドまで一緒に走ってくれた.もう誰になんと言われようと,ここまできてリタイヤはない.あとは少しずつゴールを目指すだけだ.ちょうど甲州街道からは,natsucoさんが徳さんの応援に駆けつけてくれるとの情報,こういう応援がランナーには本当にありがたい.natsucoさんが長野を離れてしまったのは寂しいけど,応援の力というものをNMCの2年間で知っていってくれたのはうれしいことだ.

 97km地点,薄暗くなってきた.もう夕方5時近い.最後のエイドでリンゴをいただき,エイドスタッフにお礼を言って出発する.といっても背中を丸めて歩くだけ.99km商店街に入ると,宿のおばちゃんが待っていてくれた.2時にはゴールすると約束したのに5時を過ぎてしまっている.大遅刻だ.「石川さん,心配したよー!」「遅くなっちゃった,ゴメン!」

12時間10分,長い長い100kmマラソンがやっと終わった.


 574番のUMMLerの方には東京24時間のときも「長野マラソンの?」と応援していただきました.60km手前ぐらいでずいぶんお話をしながら走らせていただきました.また75kmから95kmまで前後しながらお話をさせていただいた巨人軍団の120番の方は特別賞(66歳以上の完走者)めざしの大ベテラン.「いい足してるねー」と誉めていただき恐縮でした.いずれもお名前がわかりませんが,ありがとうございました.


距離について

 かなり昔から変だとは思っていました.前半がずいぶん長いのです.自動車で3回測定しましたが,前半が53.6〜54km,後半はほぼ50kmピッタリでした.2002年の大会時には私と一緒に走っていた人も,時計を見ながらちょっと首をかしげて「あれ,そんなに遅いかな?」と言っていましたし,今年は逆に私のほうが数名から「ここって前半が長いですよね?」ときかれ,「やっぱりそう思う?」という会話が数箇所でありました.

 もちろん「距離が間違っているぞ!」などと大会本部を責めるつもりはありません.角館から鷹の巣までのコースを13時間で完走する,という大会だと理解すればそれでいいわけです.それに100kmという数字にこだわるランナーなら,サロマに行けばいいのです.

 ただ,もう16回を数える大会でありながらこれまであまりこのことは言われてきません.一部のウワサでは101km(以前は武家屋敷前スタートだったらしい.今は角館の駅の近くからスタートです.)という声もありますが,104kmという声は今も聞きません.

 そういうわけで(その1),制限時間13時間のこの大会,実際の100kmの持ちタイムが12時間半以内でないと完走できません.前半50kmが実は54kmあってしかも峠越えもある,そう考えると結構厳しい大会ではあります.

 そういうわけで(その2),私の秋田でのベスト記録9時間6分は,100kmを8時間45分ぐらいで通過している計算になります.またNMC田村さんが2002年に10時間22分という自己ベストをここで出していますが,100kmをサブ10で通過していると思われます.いずれもまぼろしのサブ9,サブ10と言えましょう.

 しかしこれを証明するには,サロマを8時間半ぐらいで完走しなければダメですね.きついなー.まあいずれにしても,秋田で100kmの記録を狙うのはもうやめにします.秋田はこれで完走6回.あと4回は楽しく美味しく完走して,クリスタルランナーの称号を手に入れたいと思います.がんばるぞー!


熱があるときは

 以前TVで小出監督が「熱が下がれば大丈夫」とコメントしていましたが,当日は熱が下がっていたとしても,前日に発熱しているときは注意してください.各種の駅伝などでも,大ブレーキになるのはたいてい「前日に熱があった」というコメントがあとから付きます.それぐらい前日の発熱は当日のパフォーマンスに影響します.

 勢いでごまかせるのはせいぜいハーフマラソンまででしょう.それ以上の距離では,ベストパフォーマンスからは程遠い結果となることは確実です.ウルトラの場合,その人の走力によっては時間内完走が不可能になる場合もあります.今回,持ちタイム9時間の私でも当日は12時間かかりました.持ちタイム11時間ぐらいの人が同じ状況になれば,もう時間内完走は危うい状況です.無理してスタートしたところで,レース中は早い段階から苦しい悔しい情けない思いをさんざんして,しかも関門アウトになる確率が非常に高い.そういう覚悟ができるならスタートしてもいいですが,ベストパフォーマンスが発揮されることは万に一つもありません.「前日に発熱=DNS(Did not start,スタートせず)」が原則です.

 一つ発見.上下動の大きいフォームは頭痛がひどくなります.今回それを嫌っていろいろフォームを試してみたら,頭の上下動の小さいスリ足走法のコツがわかってきました.何か役に立てることができないかと思案しています.

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スタート前夜 発熱でダウン中 でもスタートラインには立つ

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